佐藤正午、月の満ち欠け
読みました。
157回直木賞受賞作。職場の読書好きのおじさんがおすすめしてたので手に取った。岩波文庫というと古典の印象だったが、と思ってたら岩波文庫的文庫らしい。まぁなにが言いたいかっていうとハチャメチャ読みやすかった。現代文。
結構久しぶりの文庫本だったがちゃんと集中して読めたので良かった。展開が動いてからはラストまで一気に読んでしまった。純粋に面白いし、その中でもゾッとするような、しばらくは心に残って離れない、良い作品だった。おれのクソみたいな感想文より本文読んでほしい。千円しないし。
以下、ネタバレ注意
ネタバレ注意とかわざわざ書くほど突き詰めた話もできないし、深い考察ができるわけでもないけど、フラットな状態がもっとも良いのは間違いないので、そう記す。あたしは、月のように死んで、生まれ変わるーー
人は、何をもってその人たるのか、というのはよくテーマに上げられるものだ。この作品では、未練を残した女が、前世の記憶がある子供として、タイトル、月の満ち欠け
のように甦る。
胎内から語り書け、みずからと同じ名前となるように働きかける。そして七歳の折に高熱とともに前世の記憶を思い出す。
七歳まで普通の子供として育ったその子は、上書きされ融合する自己に何を思うか。同じ記憶を有する存在は同じ人と呼べるのか。連続しない意識のなか、それでも残した未練を晴らすため、消せない衝動で動き続けるのだ。
人間が人間らしく行動する情感を書くのがとてもうまい作品で、どうしようもなく人として行動する登場人物たちに、共感してしまう。現実的でない甦りを、それでも現実的に描写する、その人の行動に厚みを持たせ共感させることを文庫本の容量に収めてまとめている。登場人物がそれぞれ持つ役割など、芸術的な章運びだった。
読後に改めて一から読みたいと思わせる本はやはりよいものだ。
読みます。